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体験記

心臓腫瘍手術体験記④ 入院す花散らしてふ雨の日に

山中 登美子

入院の前の日には冷たい雨が降っていたので、表題のような駄句を作ったりしたが、当日は花吹雪の舞う好天で、実際は「入院す花のじゅうたん踏みしめて」だった。そして4日後、手術を受けた。手首の動脈に太い注射針を刺し、そこから麻酔薬を入れる。麻酔が効いてきたところで、喉から気管に入れた管で本格的な麻酔薬を入れ、喉からはもう1本、超音波のカメラを食道に通して、ここからも心臓を見ながら手術をしたのだという。心臓を一度止めて人工心肺を使う心臓の手術には、乳がんの手術などより、うんと深い麻酔が必要だそうだ。午前10時ごろから始まった手術は午後1時半ごろには終ったようだが、集中治療室で、麻酔から覚めたのは夕方6時近かった。

この集中治療室というのは、テレビで見るような個室ではなく、大きな部屋にその日、手術を受けた患者が何人も寝かされていて、その間を絶え間なく、看護師など医療スタッフが歩き回っている。その夜は一晩中、もうろうとした意識の中で「胸が痛い、喉が渇いた、眠い、うるさくて眠れない」などと文句を言い続けたようだ。

2日後には一般病棟にもどって、廊下を歩く心臓リハビリテーション(病院スタッフはこれを「心リハ」という)が始まった。心臓血管外科の病棟は9階で見晴らしがよく、ほとんどが高齢の心臓病患者。心筋梗塞、心臓弁膜症、がんの手術を受けるために、まず心臓病の手術を受けた、といった重症者が多く、手術まで何の自覚症状もない私は珍しい例だった。でも、胸骨を切った後は、他の患者と同じ胸の痛みが辛い重症者になっていた。胸骨が完全につくまでには数か月かかるという。

病室からよく見える富士山や大きな赤い夕陽などを眺めながら、こんな駄句も作った。

 春がゆく老いと病を置き去りに

私の腫瘍は右心房と右心室の堺にある三尖弁という弁にぶら下がった、有茎の乳頭状弾性繊維胞という種類で、良性だった。つけ根の三尖弁も切って、そこに心臓を包む心膜を移植して、パッチワークしたのだという。退院は手術から2週間後。息をするたびに痛む胸をかかえて、そろりそろりと退院したのだ。それから5か月間、医師の監督のもと、30分間のエアロバイク漕ぎを中心とする、約1時間の心臓リハビリテーションのために、病院に通った。そしてリハビリが終って、9月に、5か月ぶりに山行に参加できたのだった。

手術後には、あんな痛い思いをしたのだから、これから何とか、もう少し長生きして、山行にも参加し「もと」を取りたいものだと思っている。