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体験記

心臓腫瘍手術体験記③ あなた本当に医者なの?

山中 登美子

手術のための診察当日、セカンドオピニオンを聞いた同じ医師が「胸を見せて下さい」という。で、ためらいもなくお見せすると、「僕、こんな傷跡初めて見た。こんな筋肉も残っていない胸じゃ、肋骨の間から手術しても、傷をふさぐことができない。胸骨を切る以外にない」とおっしゃる。私は呆れて「あなた医者でしょ!」と思わず言ってしまった。「僕が医師になった頃には、こんな手術法はありませんでした」とその医師はのたまう。

私が乳がんの手術を受けた25年前には大胸筋までを取る「ハルステッドの手術」は日本では「定型手術」といわれ、ごく標準的は手術法だった。しかしその頃から、乳房温存手術は少しずつ広がり始め、今では温存手術が広範に行われている。それにしても医学部では、20年前ぐらいまでは主流だった手術法を、知識としも教えなくなっているのだろうか。それとも、あの医師が特別に不勉強だったのだろうか。

30分で2万1000円のセカンドオピニオン料は、ちょっともったいない気もしたが、納得料である。K大学には別れを告げ、S大学に入院と手術の予約をし直した。心は決まったと思ったその夜、TVをつけると、ロボットを使って心臓の手術をする「心臓のゴッドハンド」といわれる「名医」が登場していた。脇の下に小さな穴を開けるだけで手術ができ、患者の負担は非常に少なく、1週間ぐらいで、元気に退院できると言っている。

胸骨を切ってから後悔はしたくなかった。またインターネットを検索すると、その「名医」はすぐにわかって、彼のホームページには質問コーナーもあった。自分の状況を細かく書き込み、「私の場合その手術方法は可能か? 費用は? 待ち期間は?」などの質問をすると、じきに返事が返ってきた。「可能。自由診療で250万円。1ヵ月半待ち」。やっと諦めがついた。費用が高すぎるし、あと1ヵ月半待つには、心理的に疲れすぎていた。